三段組みの象徴的な花瓶に、大理石のような質感の鳥が対になっていることが特徴的な作品である。作家の傾向として3D作品においてはガラスのような透明感のある質感で仕上げられることが多いが、この鳥のような質感は極めて珍しい作例である。一方で鳥の下に生けられた花はまるで溶け出したガラスのようで、奥行がさほどないことから溶け出たガラスを押し固めたような印象を我々に与える。
Curators

Kanako Nagayama
永山 可奈子
1996年東京生まれ。京都在住。京都芸術大学大学院 芸術研究科 修士課程2年 芸術専攻 グローバル・ゼミ(2025年度より芸術実践領域に吸収合併)所属。現大学院所属までに、国際基督教大学(教養学士・心理学/言語学専攻)、政策研究大学院大学(文化政策修士)、京都芸術大学通信課程芸術学コース(芸術学士)を卒業。同通信課程卒業とともに学芸員資格を取得。またPwCコンサルティング合同会社において、ビジネスコンサルタントとしてTechnology/Media/Telecom領域でのプロジェクトマネジメントを中心とした多様なプロジェクトへの参画経験を持つ。芸術的原点を20歳の時に訪れた瀬戸内海の島々に持っており、”site-specify”(=なぜそこにあるのか/あるべきか)を問うキュレーションを試みている。これまでにグループ展の制作支援、キュレーションを行ってきたほか、ギャラリーにおける作品の展示販売も手掛ける。
撮影=rnrn
キュレーション作品
強い対称性を持つ本作品は、極彩色のグラデーションで出展作品の中でも特に目を引く作品となっている。花のようでもあり、鳥のようでもある上部の構造はその線による模様によって花弁(もしくは羽)の重なりようが巧妙に描き出されている。中央の雄しべと思しき円錐の鮮やかな水色は周囲の黄色や桃色と補色の関係となって一層作品を際立たせている。
水晶のように透明で光を透過する花器には、現実には存在しえないであろう作家独特の花が生けられている。頂上部の緑色の球体は花のどの部分とも接点を持たず空中に浮遊しており、現実離れした作品であることが強調されている。しかしそこには葉があり、花のような実のようなものが枝に支えられ、花粉のように緑色の球体が付いていて、花という概念を根本から覆すものではない。まさに実在と架空を行き来する作品といえるだろう。
近いトーンで統一されたこの作品は、緩いハイヒールのような形で有機的な模様を持つ花器によって特徴づけられている。細部を観察すると、花器も花弁もそれを縁取る線は歪んでおり、決して安定しているわけではないことが分かる。デジタル作品でありながらこのような人間的に揺れ動く線描写は、作家の心情を写し取っているかのようである。胡蝶蘭を思わせるこの花の祝祭性とは裏返しとなる作家の不安な様子がにじみ出ているのではないだろうか。
対称的な本作品は2D作品にも見覚えがある宇宙的な構造の作品に通ずるものがある。ただし、3Dになることによって花器が実は四つ脚であることや、雌しべと思われる桃色の丸の浮遊感や立体感がよりリアリティを伴って伝わってくる。背景の薄紫のグラデーションの弱さがまた浮遊感を加速させる。つるりとした光沢のある花器と花、葉は一体となって作品を構成しており、飴細工のような仕上がりとなっている。
宇宙的な構造の花と花器によって、左右対称であるはずの作品に浮遊感がもたらされている。特に三つ脚の花器は構造的に安定しているようで、脚のない部分の空白が不安定さを予感させる。現実にこのような花器があるか分からないが、深い青から黄色に向かうアナログ的な色彩は作家ならではの色彩感覚が表現されているといえるだろう。器型の花弁と花器による上下が対になる描画も特徴的な一面といえる。
盆栽を想起させる、立方体の花器と自在に伸びる枝ものが描かれている。作家においてこのような非対称な作品は珍しく、また日本的な趣を感じさせるものも少ない。背景の薄紫から白にかけてのグラデーションも相まって雲海に浮かぶ植物のようにも見える。か細い梢の先には不安定にも見える黄金色の花ないし実が付いている。規則的な形態の花器に対してこの変則的な枝ぶりが作家の自由な発想の転換を映し出している。
ずっしりとした重量感のある花瓶に、南国を思わせる特徴的な造形を持つ植物が生けられている。花とも葉とも言い難いこの植物は一見対称的でありながら、中心部分のオレンジの斑点をはじめ左右差があることが見て取れる。花瓶の規則的な模様に反して植物の不規則な描かれ方は、人工物の無機性と植物の有機性を描き出しているともとれるだろう。
平面作品と同様に左右対称性をもつ本作は、回転する花器の色の移り変わりによって3D作品であることの特徴が色濃く出ている。花器の色は決して固定的ではなく、回転によって移ろう光の角度によって絶妙に色が変化する。停止しているときは平面作品のようにも見受けられ、実際に花の部分は平面作品のように薄く立体感なく作り上げられているが、丸い円錐様の花瓶によって3Dの良さを引き出している巧妙な作品と言えるだろう。
対称性の強い桜のような花びらを持つ2輪の花と角ばった花瓶が主体となっている本作品は、その調和を崩すように、つぼみのままの1本の花が添えられて描かれている。そのつぼみの色合いと他の2本のがくを見るに同じ花であろうことが窺える。その一本はなぜかどんよりとつぼみが項垂れている。果たして咲くころにはまっすぐに伸びた姿となるのか、変わらないままなのか、時間的経過を想像させる一作品である。